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Kishimoto
西暦 200X年 からのメール Vol 3 From: "Mitsui"
Date: Wed, 23 Sep 1998 20:59:39 +0900
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200X年9月23日 曇り
今日は判決を聞くために大阪に戻ってきた。高等裁判所は秋風の中で銀杏の枯れ葉にまみ
れている。
私が脱税容疑で引っ張られたのが一昨年9月末。那覇発 関西空港行きで戻ってきた直後
だった。
順調に伸びていたネットサービス経営、、その多大な利益をヨットにつぎ込んだ。しかし
決して無謀な金遣いとは思っていなかった。なぜならそのヨットのキャビンをオフィスに
使ったからである。これはかねてから私の夢だった。衛星経由でインターネットにアクセ
ス可能であれば何処にいたっていい、、それは洋上の真っ只中でも。
事実、そこから私は孤独な営業をし続けた。インターネットによる制作パートナーとのミー
ティング、サイバーマネーによる集金業務、サイバーバンキングを利用したパートナーへ
の報酬支払い。そのすべてを21インチTFT液晶+Pen7チップという21世紀の「フライデー」
とともに行なっていた。
またクリエイターとしては、作詞、作曲、編曲という「暇つぶし」からクライアント向け
制作まで、、やはりすべてを船内でおこなった。出来立てホヤホヤのホットなMIDI+WAVE
融合データをヨットの上に取り付けてあるフラットパネルから空の彼方へ飛ばして、、、、。
納税申告時にケンカになったのが、ことの始まりだった。豪華ヨットのキャビンがオフィ
スとして認められるか否か。私はありのままの自分の仕事、生活を説明した。しかし、偏
差値が趣味で大学出たての青白い税務署員は薄笑いを繰り返す、、。分厚いガラス越しに
目を細めながら、、。しかし、その腕に高性能ダイブコンピュータ内臓時計が時を刻んで
いることは知らなかった。
あれから随分面倒なことが多かった。控訴を繰り返し、モメにモメた。しかし私だって必
死である。なぜなら、この数年間のビジネスから生じた利益のほとんどを、オフィスであ
る愛艇に注ぎ込んだのだから。追徴金など払えるはずも無い。
心に秋風の吹く高等裁判所法廷では「国税庁組」が証拠物件を提出してきた。いよいよ奥
の手を用意してきたらしい。法廷の巨大なプラズマスクリーンにはデジタル映像が映し出
された。それは今年の夏の与論島だった。
どこから隠し撮りしたのだろう、、その映像には我がヨットが鮮明に記録されている。裁
判長が思わず身を乗り出している。「きっとコイツもガキのころあそこでケンポー(焼酎
のイッキ飲み)したんだろう」、、私は無表情な裁判長の顔が一瞬、、ニヤけたのを見逃
さなかった。
続いてズームアップして映し出されたのには、幼い子供2人を含む家族がヨットに乗って
いる。「ほほう、、家族みんなで結構なことですな」、、裁判長は少々苦笑いしている。
私はこれはヤバイ!、、と思った。なぜなら今年の7.8月の映像だということがすぐに
分かったからだ。
国税庁組は涼しい顔で「スライド上映会」を続けた。そして何番目かの映像で裁判長の顔
が赤らみ、、顔は引きつり、、怒りに変わった。そこに映し出されたものは「東レ最新水
着 パナウルシースルー」を着たガールが数人、、舵を取る私と戯れている。
パナウルシースルー、、それは20世紀に青春を過去形にした年寄りには信じられない素材。
こんなもの着てオオヤケに出てくるなんてとんでもない。法廷内はどよめきに覆われた。
そして最後に映し出されたものは、、、真っ白な砂浜の茅葺き屋根のしたで、一人の男が
昼寝している。どうやら与論島の兼母海岸らしい。かつてバブル型大型リゾートのあった
海岸には20世紀末の面影はない。古めかしい茅葺き小屋が点々と存在するのみ、、。し
かし実はここはデジタルクリエイター集団「21世紀の精神異常者 クリムゾン宮殿」の
溜まり場なのである。茅葺き小屋の中にはおのおのが最新の、、そしてオリジナルカスタ
マイズされたPCを隠し持っている。炎天下の酒浸りでボヤけた顔つきは、究極の気分転
換なのである。みんな腹の底で「ツメを砥いでいる」。
どんどんクローズアップするその映像に、なにやら看板が写っている。古びたベニヤ板に、
ペンキで何かを走り書きして砂浜に差し込んである。
百合が浜までヨットでクルージング!
ビール飲み放題 2000円!
判決は下りた。有罪、、追徴金1億円。
暇つぶしに7.8月、仲間で昔を懐かしんでいたのが裏目に出た。
ヨットは、凍り付く冬が来る前に差し押さえになるだろう。
高等裁判所を出ると、銀杏はすべてを枯れ葉に変えていた。
「来年、グラスボートの昼寝からまたはじめるか」、、私はこころで呟いていた。