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西暦200X年からのメール Vol 6  From: "mitsui"
Date: Fri, 2 Oct 1998 21:10:25 +0900
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200X年1月20日 晴れ

日本海高浜沖サルベージ船の甲板

福本は寒さで震えながら煙草に火をつけた。震える指に感触はない。それは風に揺れ
る炎が指に触れてもなんとも感じないから。厳冬の日本海はドライスーツでさえ身体
に染渡ってくる。

福本は潜水士になって10年、与論の海でしか潜ったことがなかった。もちろんドライ
スーツなんてたいそう大袈裟なものは、お目にかかったことが無い。亜熱帯の与論は
真冬でさえ3ミリのウエットスーツで十分だった。

いの一番、この現場に移ってきたのは破格の日当のため。かつて親類の叔父が高浜原
発の溶接工事に従事していたのを聞いていた。その日当の高さ、、連日の飲めや歌え
の大騒ぎ、、単身赴任の心地よさ。
「オヤジのようにキビ刈っていたってなぁ、、」 叔父は当時小学生だった福本に誇
らしげに語っていた。そして、当然のことのように福本もナイトライフを楽しんでい
た。PM5:00にさっさとドライスーツを脱ぎ捨てシャワーを浴びて「トライスーツ」に
着替えて、、お洒落して。コロンは潮の香りを隠した。
与論に残した妻とはうまくいっていなかった。だから凍える寒さに我慢しても単身赴
任は気が紛れる。嫁姑の狭間はウンザリだった。

その後すぐに福本は離婚。しかしショックはあまり無い、、2度目だから。実際、与
論では「内地」から嫁をもらうと離婚率は高かった。夏のビーチで出会った恋は長く
は続かない、、熱い二人が砂浜に絡めた足跡を残しても、満ち潮の波二つでかき消す
ように、、、。
最高のドラマから始まった恋愛は、その後の結婚生活に辛いものが多すぎる。外国語
のような方言、風習、閉ざされた冬、、そしてなによりも1000キロも離れた実家。
なだめる亭主、制止する亭主、、それは遥か日本海。振り込まれたボーナスを懐に妻
は二人の子どもを連れて飛行機に乗っていた。福本が知らぬ間に。

高浜のナイトラウンジで福本は自慢の歌で頑張っていた。20世紀の終わりに登場した
通信カラオケはその後、ファイバーケーブルによる配信サービスにより動画も肉声
コーラスも完璧だった。飲むほどに、歌うほどに、酔うほどに福本は饒舌になってゆ
く。「ハイパーウェイキーとボードセイリングはNO.1なんだ!」「最高のヨットハー
バーがあるから遊びにおいでよ!」、、しかしなぜかモテなかった。日本海の荒波の
ドライスーツ男は珊瑚礁の島を懐かしんだ。

21世紀に入って環境破壊以上に、島民にとって深刻だったのが嫁不足であった。絶頂
のリゾート開発も終わってしまえば何も無い。リゾートというキーワードで嫁いだ者
まで去ってゆく。その離婚率の高さがいっそう拍車をかける。サマーシーズンになる
と男達は真剣だった。日本海の現場も放り出して戻ってくる。まるで御輿を担ぐ村祭
りのように。かつてトウキョウガールキラー、与論の種馬、と豪語した青年団も当時
の夢はない。「子孫をどうするのか」、、親から突きつけられた言葉に逆らえるもの
はいなかった。

しかし、そのことに少しばかり早く気づいた者たちがいた。一回り以上年下の島の娘
と再婚した者たちだった。日曜日に乳飲み子を抱えて海岸でピクニック。やっと歩き
出した我が子が美しい砂と戯れている。なんら贅沢の無い、、、質素だけれども1年
を通してみれば満ち足りていた。そしてなによりの発見は、、、
「我が子の肌が触れるものを汚染したくない」という思いだった。

「おとうさーーん頑張って!」爆音を轟かせる青年団のハイパーウェイキーは馬鹿に
しながらその前を突っ走る。毎度のことだ。数年後、頭も薄くなった青年団はやはり
ウェイキーを走らせる。東からのシンデレラを待つにはそれしかなかった。世紀末の
カウントダウンは翌日を告げたのに、、、。

「政府 沖縄にカジノ認可!」

香港、シンガポール、韓国の財界はすでにそのニュースをつかんでいた。スターオブ
アジアの現代財閥会長は、沖縄県に密接なアプローチをかけている。そして、連邦政
府へのソフトランディングを予定する日本政府に対して沖縄県は独自の共栄圏、そし
てその首府への自信を強めていた。

アジア最大のカジノが登場するとなればリゾート開発にはぜひとも参入したい。もっ
ともプッシュしたのは韓国。なぜならウォーカーヒルもチェジュも客足が遠のく。そ
して、斉州島以南の「南の島」を領土に持たなかったから。厳冬の自国にはなんとし
ても手中にしたい、、また、中国大陸、ロシアへのツーリストビジネスのために
も、、。
妖艶な接待を肉料理に、泡盛は極上のワインで、沖縄県知事以下視察団にはフルコー
スが用意された。

この北の隣国は過去、戦後の外貨獲得、オリンピック、ワールドカップなど重要な場
面では必ず一つの外交カードを使ってきた。

angel@Hyundai.**.kr より秘密裏にメッセージは送られた。

発送先、、それは20世紀より休戦中の国 ノースコリア。

    暗号コード     Little Angels

    「対日輸出用 花嫁 の第一陣出荷は用意出来たか」

飢餓に苦しむかの国の村では日本語教育が外貨獲得手段として復活、、準備されてい
た。10年の歳月をかけて。