klab/yoron/letters.html Copyright 1996-2000 Ken
Kishimoto
西暦200X年からのメール Vol 7 From: "Mitsui"
Sun, 4 Oct 1998 20:33:10 +0900
前に
次に
200X年7月22日 晴れ
我が竜宮丸にしこたまビールを積み込んで、その日は朝から釣り三昧。一昨日は
100cmクラスのサワラを3本立て続けに揚げた。ところが今日はサッパリだ。
ブロードキャストサービスでチタンノートPCからはCNNが映し出されている。暇つ
ぶしにはなる。
CNNは海難事故を伝えている。私はイサナの父親を思い出した。それは今日のよう
なさっぱりヒットのない日だった。
数年前、突然ボートの右舷にウエットスーツ姿の男が浮かび上がった。うつ伏せに
なったまま波間に揺れるその姿には水中眼鏡が無い。、、水死体だ、、。
引き上げると顔面は白骨化している。魚に食われて。そして手首にはロープが絡まっ
たままのスピアガン(水中銃)があった。
私はスピアガンで、、死者が何者で、そして何が起ったのかを理解した。
イサナの父親は滝村健也という。島一番の嫌われ者だった。スピアガンで魚を捕り自
らが営む民宿で獲物を食わせる。2000年も過ぎた与論で今時、民宿などをやっている
こと、そして法律で禁じられているスピアガン漁をやっている者など滝村を除いて一
人もいなかった。そのうえ酒乱で暴力沙汰が絶えない、口は悪い。ところが滝村は世
界各地に「熱狂的な」お客さんを持っていた。
薄汚れた滝村の民宿の玄関には、ひとつの巨大な魚拓が張ってある。
180cmを超すヒラアジ、、その脳髄のあたりには無数のキズが魚拓でさえハッキリ確
認できる。スピアガンの銛が貫通した跡、そしてナイフの切り傷。
滝村は素潜りで水深20mに3分いることが出来る。そのヒラアジに向けて放たれたスピ
アガンの銛は数センチ脳髄を外れた。狂ったように暴れる相手、必死でロープを手繰
り寄せ、足首に用意したシーナイフで格闘した。なんとか仕留めたが水深3mあたりで
ブラックアウト(失神)しそうになった。、、、それが玄関を飾る自慢の魚拓であ
る。
彼のファンはその魚拓を見て子どものようにはしゃぐ。その中の一人に、、関西最大
の暴力団の親分がいる。もう20年のつきあいだ。親分は20年前、、下っ端だったこ
ろ、債権取りたてで与論まで、夜逃げの社長を追いかけてきた。しかしそのあまりに
も美しい海、そしてそこに沈む夕日に圧倒された。孤独だった少年時代に想いは移
り、涙が溢れ出た。
逃亡にくたびれた社長は海岸沿いでひっそりと居酒屋をやっていた。
「今度逃げたら殺すぞ!」そう言って、、見逃してやった。
和歌山の貧しい漁村出身の親分は収監されること4回、前科10犯、40才になるまで楽
しいことなんか何一つ無かった。40才でやっとその筋で一人前になってからの楽しみ
は年一回のトカラ列島釣り三昧。200Kgのクエを揚げたことが自慢。帰りには必ず与
論の滝村に会いに来た。
「兄弟はなぁ!潜ってサシでコイツを仕留めたんや!釣りと違うで!」ヒラアジの魚
拓をまえに子分に唾を飛ばす。毎年、毎年。
また別の熱狂的ファンには、、
年に一回、インド洋を越えて豪華ヨットが与論にやってくる。アラブの王子だ。数年
前、オーストラリアのカジノで大敗したので、気分直しに沖縄に舵を向けるように召
し使いに命じた。投資目的の視察も少しはあった。
王子の趣味はスピアフィッシング。モルジブあたりまでは敵うものがいない。噂を聞
きつけて与論、茶花沖にアンカーを打った。
与論の観光課は突然のVIP来島に大慌て。リゾート計画のブランドイメージ、そし
て動物保護団体を気にして「スピアガンの勝負」を止めるように滝村を説得した。
しかし滝村は役場の職員に言い返した。
「珊瑚を削って小魚が住めなくしているのはアンタ達だ。より大きい魚を殺すのが可
哀相というのか。食物連鎖をもう一度小学校で習ってこい!」
滝村の説得など、虎に向かって聖書を読むようなものだと諦めた役場の職員は豪華
ヨットに向かった、そして懇願した。滝村がいかに野蛮で島の頭痛の種かを、、。そ
して5分以上も息を止めていられるから勝負は王子に危険すぎることを、、、。王子
は黙って聞いていた。「聖書よりもコーランか」と職員は期待した。
そして王子は一言呟いた、、本国に帰ると嗜めなくなるビールを呑みながら。
「グ レ イ ト!」
華厳教総本山住職
マネーショップ社長
在日NO1イタリアンホスト
証券経済研究所 所長
アイダホの農薬散布屋
上海の養殖産業社長
ロシアの産業廃棄物処理業者
ニューヨークの鮪買付け人
ベガスの芸能マネージャー
スペインのメガヨットデザイナー
ワルシャワの哲学者
那覇のタレント学校 校長
潜水教育団体スーパーバイザー
東京痩身漢方薬社長
滝村の客は20世紀の欲望で食っている、胡散臭い野郎ばかり、、。本当はアフリカ
の大草原でライオンをハンティングしたいのだが21世紀の今日、、見つかれば即
刻、銃殺形が待っている。そういった訳もあって Sea Hunter Mr.TAKIMURA の名は世
界中にウワサされた。
滝村はブルネイから招待されたことがある。しかし家族と自分を慕ってくる者のため
にしか引き金を引かない。生態系の頂点に位置する生物、その上に自分が位置す
る、、よって違法行為であるスピアフィッシングは自分には許される。それが滝村の
持論だった。そういう意味においても「扱いにくい」存在だった。
滝村は死んだ。水中眼鏡が無いのは2mをこす大物に銃を撃ったから。銛にはロープ
がついている。脳髄を狙って即死させないと人間など、情けないほど非力なもの。不
幸なことに腰に付けていた捕獲用ネットがスピアガンに絡まった。あっという間に水
深30m、40m、50m、と引きずられる。その勢いで水中眼鏡は外れた。
滝村には臨月の妻がいた。再婚だった。身重の妻は棺に会わせてもらえなかった。白
骨の顔と面会させるわけにはゆかない。
粗野な亭主、、、子どもにはそうなってほしくなかった。だから「安雄」「保子」と
命名することを決めていた。しかし、我が子を見ずに亭主は死んだ。妻は想いを改め
た。
生まれてきたのは息子、、命名は 「イサナ」
イサナはいじめられた。貧しかったから。小学生になるとリーフに潜ってサザエを
取っていた。繰り返される公共事業による景気で、島の子供たちは島にサザエがいる
ことすら知らなかった。マーケットにいってラップに包れたものを買っていたから。
イサナはマーケットに自分が採ったサザエを引き取ってもらっていた。
小学校の水泳教室は校庭のプールで行われ、塾とお稽古はあたりまえ、、そんな子供
たちには海に潜って何をやっているのかわからないイサナを気持ち悪がった。
中学に上がった頃には、ほとんど学校には無縁になっていた。母と二人の極貧生
活、、そして孤島の暮らし。学問が何になるというのか。この先には何が待っている
というのか。生まれる前に死んでしまった父のように一生、漁師で生きてゆくのか。
同級生は家族一丸となって大学進学という、、。焼け付くような太陽の島で青白い表
情で。DVD128 bitプレステゲームの話題など、何処か異国の話しに聞こえた。
そんな時、島にたった一軒だけあるパソコンショップの前を通った。それがインター
ネットとの出会いだった。文部省はインターネット大学受験検定試験とインターネッ
ト通信教育講座を認可する方向に進んでいた。瞳孔、指紋、声紋の同時複合スキャニ
ング技術が確立されたからだ。イサナは自分の運命を変えるにはこれしかないと確信
するようになる。プロバイダーを兼ねるパソコンショップのオヤジにお願いした。何
度も何度も。
「おまえの父親は嫌な奴だった、しかし信念はあった。英語の読み書きだけでいい、
大島郡、、いや、、オキナワで一番になれ! そうしたら雇ってやる!」 オヤジはそ
う答えた。